労働災害を防止するための「リスクアセスメント」の実施について

労働安全衛生

EIICHIです。
2024年11月9日に『「化学物質」による労働災害防止のための新たな法規制について』というタイトルで投稿をUPしましたが、その中で「リスクアセスメント」という言葉が頻繁に出てきましたので、今回はその「リスクアセスメント」について、厚生労働省の資料等をもとにお話ししたいと思います。

2016年6月1日、労働安全衛生法が改正され、SDS交付義務の対象となる物質について事業場における「リスクアセスメント」が義務付けれらました。
業種、事業場規模にかかわらず、対象となる化学物質の製造・取扱いを行うすべての事業場が対象となります。
製造業、建設業だけでなく、清掃業、卸売・小売業、飲食店、医療・福祉業など、さまざまな業種で化学物質を含む製品が使われており、労働災害のリスクがあります。

※『「化学物質」による労働災害防止のための新たな法規制について』はこちらを参照ください 

「リスクアセスメント」について

労働安全衛生法では、化学物質などによる危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もることに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する一連の流れを「リスクアセスメント」と定義しています。
事業者は、その結果に基づいて適切な労働災害防止対策を講じる必要があります。労働安全衛生法第28条の2では、「危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づく措置」として、製造業や建設業等の事業場の事業者は、「リスクアセスメント」及びその結果に基づく措置の実施に取り組むことが努力義務とされ、その適切かつ有効の実施のために、厚生労働省から「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」が公表されています。

対象となる事業場

業種、事業場の規模にかかわらず、対象となる化学物質の製造・取り扱いを行うすべての事業場が対象。
様々な業種で化学物質を含む製品が使われており、労働災害のリスクがあります。

「リスクアセスメント」実施義務の対象物質

対象は、製品データシート(SDS)の交付義務の対象である物質。(2024年4月1日現在896物質)

「リスクアセスメント」の実施時期

法律上の実施時期

労働安全衛生規則第34条の2の7第1項

  1. 対象物を原材料などとして新規に採用したり、変更したりするとき
  2. 対象物を製造し、または取り扱う業務の作業の方法や作業手順を新規に採用したり変更したりするとき
  3. 上記「1」、「2」に掲げるもののほか、対象物による危険性または有害性などについて変化が生じたり、生じるおそれがあったりするとき  
    など

指針による努力義務

危険性又は有害性等の調査等に関する指針「5」(2)

  1. リスクアセスメント対象物」に係る労働災害が発生した場合であって、過去の「リスクアセスメント」等の内容に問題があることが確認された場合
  2. 前回の「リスクアセスメント」等から一定の期間が経過し、リスクアセスメント対象物」に係る機械設備等の経年による劣化 、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識 経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
  3. 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメント対象物」として新たに追加された場合など、当該「リスクアセ スメント対象物」を製造し、又は取り扱う業務について、過去に「リスクアセスメント」等を実施したことがない場合

「リスクアセスメント」の実施体制

実施体制は以下のとおりです。

担当者説 明実施内容
総括安全衛生責任者など事業の実施を統括管理する人リスクアセスメントなどの実施を統括管理する
安全管理者または衛生管理者、作業主任者、職長、班長など労働者を指導監督する地位にある人リスクアセスメントなどの実施を管理
化学物質管理者化学物質などの適切な管理について必要な能力がある人の中から指名するリスクアセスメントなどの技術的業務を実施
専門的知識のある人必要に応じ、化学物質の危険性と有害性や、 化学物質のための機械設備などについての専門的知識のある人をいう対象となる化学物質、機械設備のリスクアセスメントなどへの参画
外部の専門家労働衛生コンサルタント、労働安全コンサ ルタント、作業環境測定士、インダストリアル・ハイジニスト(労働現場と社会における人々の健康と安全の保護を担う科学者であり技術者)などより詳細なリスクアセスメント手法の導入など、技術的な助言を得るために活用が望ましい

「リスクアセスメント」の実施手順

「リスクアセスメント」は以下のような手順で進めていきます。

1.化学物資などによる危険性又は有害性の特定
(労働安全衛生法第57条の3第1項)

2.特定された危険性または有害性によるリスクの見積もり
(労働安全衛生規則第34条の2の7第2項)

3.リスクの見積もりに基づくリスク低減措置の内容の検討
(労働安全衛生法第57条の3第1項)

4.リスク低減措置の実施(努力義務)
(労働安全衛生法第57条の3第2項)

5.「リスクアセスメント」結果の労働者への周知、記録の作成及び次の「リスクアセスメント」実施までの期間の保存
(労働安全衛生規則第34条の2の8)

1から3が「リスクアセスメント」

1.化学物資などによる危険性又は有害性の認定

化学物質などについて、「リスクアセスメント」などの対象となる業務を洗い出した上で、 SDSに 記載されているGHS分類などに即して危険性または有害性を特定する。

ラベル
化学物質の容器につけられている「ラベル」により、化学物質の危険有害性情報や適切な取り扱い方法が伝達される。(容器や包装にラベルの貼付や印刷がされている)

安全データシート(SDS)
事業者間の取引時に「SDS」が提供され、化学物質の危険有害性や適切な取り扱い方法が伝達される。

2.リスクの見積り

リスクアセスメントは、対象物を製造し、または取り扱う業務ごとに、次の①~③のいずれか の方法またはこれらの方法の併用によって行う。(危険性については、①と③に限る。有害性については、②を推奨。)

①対象物が労働者に危険を及ぼし、または健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)と、危険または健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法

具体的には以下の方法がある。

マトリクス法発生可能性と重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじ め発生可能性と重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを 見積もる方法
数値化法発生可能性と重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算また は乗算などしてリスクを見積もる方法
枝分かれ図を用いた方法発生可能性と重篤度を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法
コントロール・ バンディング化学物質リスク簡易評価法(コントロール・バンディング)などを用いてリスク を見積もる方法
災害のシナリオ から見積もる方法化学プラントなどの化学反応のプロセスなどによる災害のシナリオを仮定して、 その事象の発生可能性と重篤度を考慮する方法
※詳細はこちらの6、7ページを参照ください。

②労働者が対象物にさらされる程度(ばく露濃度など)とこの対象物の有害性の程度を考慮する方法

具体的には以下のような方法がある、このうち実測値による方法が望ましい。

実測値による方法対象の業務について作業環境測定などによって測定した作業場所における 化学物質などの気中濃度などを、その化学物質などのばく露限界(日本産業衛生 学会の許容濃度、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)のTLV-TWAなど)と比較する方法
使用量などから 推定する方法数理モデルを用いて対象の業務の作業を行う労働者の周辺の化学物質などの 気中濃度を推定し、その化学物質のばく露限界と比較する方法
あらかじめ 尺度化した表を 使用する方法対象の化学物質などへの労働者のばく露の程度とこの化学物質などによる有 害性を相対的に尺度化し、これらを縦軸と横軸とし、あらかじめばく露の程 度と有害性の程度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを 見積もる方法

その他、①または②に準じる方法

危険または健康障害を防止するための具体的な措置が労働安全衛生法関係法令の各条項に規定されている場合に、これらの規定を確認する方法などがある。

  1. 特別則(労働安全衛生法に基づく化学物質等に関する個別の規則)の対象物質(特定化学物質、 有機溶剤など)については、特別則に定める具体的な措置の状況を確認する方法
  2. 安全衛生法施行令別表1に定める危険物および同等のGHS分類による危険性のある物質について、安全衛生規則第四章などの規定を確認する方法

3.リスク低減措置の内容の検討

リスクアセスメントの結果に基づき、労働者の危険または健康障害を防止するための措置の内容を検討する。

  • 労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則や特定化学物質障害予防規則などの特別則に規定がある場合は、その措置をとる必要がある。
  • 次に掲げる優先順位でリスク低減措置の内容を検討する。
    1. 危険性または有害性のより低い物質への代替、化学反応の プロセスなどの運転条件の変更、取り扱う化学物質などの形状の変更など、またはこれらの併用によるリスクの低減
    2. 学物質のための機械設備などの防爆構造化、安全装置の 二重化などの工学的対策または化学物質のための機械設備などの密閉化、局所排気装置の設置などの衛生工学的対策
    3. 作業手順の改善、立入禁止などの管理的対策
    4. 化学物質などの有害性に応じた有効な保護具の使用

4.リスク低減措置の実施

検討したリスク低減措置の内容を速やかに実施するように努める。
死亡、後遺障害または重篤な疾病のおそれのあるリスクに対しては、暫定的措置を直ちに実施しなければならない。
リスク低減措置の実施後に、改めてリスクを見積もるとよい。

リスク低減措置の実施には、例えば次のようなものがある。

  • 危険有害性の高い物質から低い物質に変更する。
    物質を代替する場合には、その代替物の危険有害性が低いことを、GHS区分やばく露限界値などをもとに、しっかり確認する。
    確認できない場合には、代替すべきではない。危険有害性が明らかな物質でも、適切に管理して使用することが大切。
  • 温度や圧力などの運転条件を変えて発散量を減らす。
  • 化学物質などの形状を、粉から粒に変更して取り扱う。
  • 衛生工学的対策として、蓋のない容器に蓋をつける、容器を密閉する、局所排気装置のフード形状を囲い込み型に改良する、作業場所に拡散防止のためのパーテーション
    (間仕切り、ビニールカーテンなど)を付ける。
  • 全体換気により作業場全体の気中濃度を下げる。
  • 発散の少ない作業手順に見直す、作業手順書、立入禁止場所などを守るための教育を実施する。
  • 防毒マスクや防じんマスクを使用する。
    使用期限(破過など)、保管方法に注意が必要。

5.「リスクアセスメント」結果の労働者への周知

「リスクアセスメント」を実施したら、以下の事項を労働者に周知する。

  1. 周知事項
    ① 対象物の名称
    ② 対象業務の内容
    ③ リスクアセスメントの結果(特定した危険性または有害性、見積もったリスク)
    ④ 実施するリスク低減措置の内容
  2. 周知の方法は以下のいずれかによります。(SDSを労働者に周知する方法と同様)
    ① 作業場に常時掲示、または備え付け
    ② 書面を労働者に交付
    ③ 電子媒体で記録し、作業場に常時確認可能な機器(パソコン端末など)を設置
  3. 労働安全衛生法第59条第1項に基づく雇入れ時の教育と同条第2項に基づく作業変更時の教育において、上記の周知事項を含める。
  4. 「リスクアセスメント」の対象の業務が継続し、上記の労働者への周知などを行っている間は、それらの周知事項を記録し、保存しておくこと。

その他

労働安全衛生法に基づく「リスクアセスメント」義務の対象とならない化学物質などであっても、労働安全衛生法第28条の2 に基づき、「リスクアセスメント」を行う努力義務があるので、上記に準じて取り組むように努めなければならない。

参考資料

厚生労働省の資料等をもとに作成しました。

詳細は、こちらの厚生労働省作成の資料及び職場の安全サイトも参照ください。

EIICHIでした。

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